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2011年11月「今を生きる」


 私達にとって確かな時間、それは今、現在という時間です。過ぎ去った過去は取り戻せませんし、これから何が起こるかもよく分かりません。それなのに、過去の出来事にとらわれていたり、将来のことを思い悩んだりする私たちです。今を生きることの大切さを思います。

 

 ある日のテレビで紹介されたアメリカの女性は、大変重い病をかかえながら、今という現在を豊かに生きている方でした。彼女は、人生がまだまだこれからという年齢で、アルツハイマーという病気にかかっていると診断を受けました。そのショックは言葉に言い表しがたいほど大きなものでした。

 

 こののち、だんだんと記憶力を失い、最後には自分自身が誰であるかも分からなくなって、そう遠くない将来に死を迎えるであろうという大変厳しい内容の医者の言葉でした。その受けた苦しみは想像に絶するものがあります。彼女は、発病の後、2年ほど家に閉じこもってしまいました。

 

 しかし、ご主人の変わらない愛、周りの人々の温かい支えによって、彼女はその苦しみから立ち治っていきました。テレビに移っているその顔は、とても美しく、穏やかで爽やかでした。すでに、昨日起こったことは忘れてしまうような状態でしたが、幸いにも自分の体や心の変化について、正確に人に伝える能力が残っていました。

 

その彼女が話した中に、私の心に止まった言葉がありました。こういう言葉です。「私にとっては、今、目の前にある事柄が全てです。私が今、感じていること、心動かされること、それが、私が生きている証、私の全てなのです。」彼女ならではの、重みのある言葉、そしていい言葉だなと思いました。彼女は与えられている「現在」を力強く生きていました。そしてこれは、健康な私にも共通する言葉であると思いました。

 

キリストの弟子、使徒パウロという人は、コリントにあるクリスチャン達にこう語りました。

 

「恵みの時に、わたしはあなたの願いを聞き入れた。救いの日に、わたしはあなたを助けた、と神は言っておられるからです。今や、恵みの時、今こそ、救いの日」コリントの信徒への手紙6章2節

 

 パウロは、「今や」「今こそ」といい、今日という日の中に、神の恵みや救いがあるといっております。過去の出来事によって心を暗くしていませんか? せっかくの新しい今日の日が、そのために暗くなってしまう事は、とても残念です。あるいは、将来のことを思い煩っていませんか?病気になったらどうしよう、年おいて一人残されたらどうしよう、お金は大丈夫だろうか、といった心配です。人は、一度心配しだしますと、きりがないほどに心の不安は大きくなっていきます。

  

 もう一度、覚えましょう。「今日が恵みの日、今日が救いの日」なのです。あのアルツハイマーの女性が、許された今を生き抜いていたように、私達もこの日一日、今晩眠りにつく時まで、与えられた今日の命に感謝し、精一杯の歩みをなさせていただきたいものです。