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2018年9月「乗り越える力を下さい」


 インドの詩人タゴールの詩です。

 

私が願うのは 危険から護(まも)られることではなく 

危険のさなかで 恐れないことです。

哀しみのどん底 心のはげしい痛みの中で 慰めてもら 

うことでなく

哀しみを克服し 勝利を歌うことなのです

逃げ場がなくなった時も 勇気を失わせないでください

世間的に大失敗し 挫折の連続に遭(あ)っているときも

その害が、取り返しのつかないものだと考えない恵みを

いただきたいのです

  あなたが来て 私を救ってくださる これを私は願っていません。

  わたしが願うのは 乗り越えていく力です。

  あなたは私の荷を軽くしたり 慰めてくださらないで結構です

  ただ 私が重荷を担う その力をお与えください

  喜びの日に謙虚に頭をたれ あなたを思い あなたの存在を認めます

  暗い悲しい夜 失意以外何もない夜にも

  ああ 決してあなたを 疑うことがありませんように

 

この詩の中で「あなた」と言われているのは、神様でしょう。この詩を読んだときの最初の感想は、私には到底このような祈りは出来ないというものでした。私と同じように、多くの人はむしろ「ああ神様、私を危険からお守り下さい、激しい痛みのときにはどうぞ慰めて下さい、私の荷を軽くして、そして救ってください」と祈ります。そして、困った時には私を呼べといわれた神様ですから、助けを求めるのは当然の事だと思うのです。

 

 しかしこの詩を思い巡らせるうちに、本当の強さの秘訣(ひけつ)、隠された真実が徐々に見えてきました。私達の人生には「なぜですか?どうしてですか?」の問いだけがあって、答えのない出来事は少なくありません。なぜ私が災害に、事故に、病に? 真面目に生きている人に容赦なく襲い掛かる悲惨な出来事、またお金持ちと貧乏人とのあまりの落差、不公平感。その他もろもろ、枚挙にいとまがありません。祈れば事態は変わるのでしょうか?変わる時もあります。しかし多くの人が経験している事は、事態はそう変わらず、各自が自分の重荷をそのまま抱えて生きる他ないというものです。

 

ですから慰めは確かに必要ですが、人を本当に生かし得るものは、苦難を抱えつつも、なお前向きに生きる勇気と力を「自分のものとする事」です。タゴールは「私が願うのは、乗り越えて行く力です」と語り、最後は「ああ、決してあなたを疑うことがありませんように」と結びました。あの未曾有の東北関東大災害の中、1人の被差者が言いました。「私達は世界でも類のない災害にあいました。だから、世界でも類のない幸せな町作りに、今、ゼロから取り組んでまいります」先のタゴールの詩にも通じる驚くべき強さを感じたことです。人は苦難に、毅然として立ち向かおうと腹を据える時、天からの不思議な支えがくるのでしょう・・・。きっと。

 

およそ鍛錬というものは、当座は喜ばしいものではなく、悲しいものと思われるのですが、後になるとそれで鍛え上げられた人々に、義という平和に満ちた実を結ばせるのです。だから、萎えた手と弱くなったひざをまっすぐにしなさい。」 ヘブライ人への手紙12章11節~12節